物理が面白くなる(かもしれない)ブログ

高校生向けの物理が苦手な人は物理に興味を持つように、得意な人はより好きになるようなお話を書いていこうと思います

物おも1「真上に撃った拳銃の弾って危なくない?」

はじめに

刑事ドラマや探偵アニメなどをよく見ていればたまに目にするであろうこんなシーン。

 

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絵心なくてごめん!

 犯人やら刑事やらが真上に拳銃を撃って相手を威嚇しているこのシーンを見てみんなもこんな風に考えたことがあると思う。

 

「上に撃った弾って落ちてきたら危なくない?」

 

今回はこのテーマについて物理を通して考えていこうと思う。

 

上に撃った弾はどうなる?

まず条件として

・真上に撃った拳銃は直径9[mm],質量10[g]の弾丸を初速度250[m/s]で飛ばすもの

・重力加速度は9.81

・周囲は無風の状態

と仮定する。

 

では「撃った弾がどうなるか」ということについて考えてみよう。

考えられる可能性としては二つあるだろう。

 

  1. 宇宙まで飛んで行って落ちてこない(そのまま飛んでいく)
  2. 普通に落ちてくる

 

直感的に1はあり得ないと思うが、一応考えてみよう。

これは位置エネルギーと運動エネルギーを使えばよさそうだ。

 

最初に弾が持つエネルギーは、拳銃を撃った場所を位置エネルギーの基準点とすると運動エネルギーのみ。そのエネルギーは

E=\frac{1}{2}mv^2=312.5

だ。

そして仮に空気抵抗がなかったとすると、弾の最高地点の高さは運動エネルギーがすべて位置エネルギーになった瞬間であるから、

mhg=312.5

よって

h=3188.776

と、弾は撃った場所から約3.2kmの高さまでしか飛ばないことがわかる。

富士山の高さは3776mであるから、標高0mのところから真上に拳銃を撃っても富士山の頂上にすら届かないことがわかる。空気抵抗のことを考えてなくてもこうなのに、宇宙まで飛んでいくはずがあるまい。

 

これらのことから、真上にうった弾は宇宙に飛んでいく、なんてことはなく、そのまま撃ったところに戻ってくることがわかるだろう。

 

1が違うとわかったところで(まあ考えるまでもなかったかもしれないが)、2について考えてみよう。

 

弾はどうやって落下する?

真上に撃った弾は何らかの速度をもって地上に落下するみたいだ。ではこの速度はどれくらいだろうか。

速度によっては多少のけがで済むのではないだろうか。

それとも拳銃を撃ったときと同じくらいの速度で落ちてきて当たったら多少のけがではすまないのだろうか。

 

このことについて考えるために、落下中の弾の運動方程式を求めてみよう。

落下中の弾に働いている力について考えてみると、重力、そして空気抵抗の二つがあげられる。

 

よって運動方程式は弾の質量をmとおくと運動方程式

m\frac{dv}{dt} = mg  – f

となるだろう。

 

しかしこれではfの値がどれくらいかあまりわからないため、「空気抵抗」というものについて考えなければならない。

 

空気抵抗ってなんだ?

空気抵抗と聞いて思い浮かべるのは、「走っている車の窓から手を出すと感じる力」や「パラシュートを使うとゆっくり降りことができる理由」などだろう。

 

確かにこれらは空気抵抗といえば空気抵抗だが、このような言い回しだと上に書いた運動方程式に応用ができないだろう。

そのためここから空気抵抗はどのような力なのか、ということを求めていこうと思う。

(原理とかめんどくさい、という人はトバシテネ)

 

速度vで運動する物体は、常に速度-vで空気が当たっている、ということは言うまでもないだろう。

 

ではある時間\delta t秒で衝突する空気の運動量を求めてみようと思う。空気の密度を\rho,物体の断面積をSとすると、運動量P

P=\rho S v \delta t \times (-v)

である。

 

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空気と物体の衝突によって空気の速度が0になると考えると、空気の受ける力積は運動量の変化から求められるだろう。

力積F\delta t

F\delta t = 0 -(-\rho S v^2 \delta t) = \rho S v^2 \delta t

 

これを時間でわれば物体が受ける空気抵抗の大きさがわかるだろう。

空気抵抗の大きさfは

f=\rho S v^2

と求めることができた。

 

まとめると、速度vで運動している物体にはたらく空気抵抗の大きさfは、空気の密度を\rho,物体の運動方向の断面積(前方投影面積ともいう)をSとおくと、

f=\rho S v^2

であるとわかった。

 

では本題の弾の運動方程式にこれを代入すると、

m\frac{dv}{dt} = mg - \rho S v^2

と求めることができた。

 

空気抵抗を受けながら落下すると?

上の章を飛ばした人ようにもう一度落下中の弾の運動方程式を書くと

m\frac{dv}{dt} = mg - \rho S v^2

 

ではこの式からどのようなことが考えられるだろうか。

右辺に注目してみると、mgは定数であるため弾の速度が大きくなるにつれて、右辺の値は小さくなることがわかる。

その時当然弾の加速度も小さくなる。

 

すると、弾はある速度までいくと、つまり

mg - \rho S v^2 = 0

を満たすとき、それ以上加速をしなくなるとわかるだろう。

ちなみにこの時の速度vを終端速度という。

 

ではこれから、真上に拳銃を撃ったとき落下してくる弾の終端速度vを求めてみようと思う。

 

前にも書いたように、終端速度v

mg - \rho S v^2 = 0

を満たすから、この方程式を解けば求めることができる。

 

v^2 = \frac{mg}{\rho S}

よって

v = \sqrt{\frac{mg}{\rho S}}

であることがわかった。

 

ではこれらの変数に実際の数値を入れていこうと思う。

弾の質量は0.01[kg],重力加速度は9.81,空気の密度は1.29[kg/m^3],弾の断面積は6.36 \times 10^{-5}であるから

 

v=34.5788\cdots\simeq34.6

 と、真上に拳銃で弾を撃ったとき、34.6[m/s]の速さで落下してくることが分かった。

 

落下した弾に当たるとどうなる?

しかしこのように求めてもあまり実感がわかないだろう。そのためほかのなじみやすい例を挙げようと思う。

 

34.6[m/s]で落下してくる0.01[kg]の球が持つエネルギーは野球ボール(約150g)が8.93[m/s]でぶつかるエネルギーに等しい。

つまり、真上に拳銃で球を撃ったときに受けるエネルギーは、よく始球式のイベントで見かける女性タレントがなげる山なりのボールがぶつかるのとようなものだ、ということが分かった。

 

 一概にエネルギーが同じならば、当たった時のけがの具合が同じであるとは言えないが、万が一落ちてきた弾に当たったとしても思っていたよりも深刻なけがはしないで済みそうだ。

 

まとめ

これらのことから、よくテレビで見る真上に拳銃を撃つシーンは危ないのでは?と思うが、万が一当たっとしても即死するようなことはなく、多少のけがで済むということがわかった。

ここまで計算してきたが実際に威嚇射撃が行われる場合には斜め下に撃つように規則があるらしい

↑は置いておいて、高校物理の範囲(少し応用もあるかもしれないが)でこのような疑問を解決することができた。

このブログがみんなの物理学習意欲に少しでも刺激を与えられたらいいな。